So-net無料ブログ作成

宝永町248番地 第72話 [Wessay]

板壁と前歯

朝起きてみると何やら家じゅうがざわざわしている。
犬のレイの鳴き声もいつもと違って、
ただ散歩に連れて行けという吠え方じゃないような気もした。

「ばあちゃん、どうしたの?」
「どろぼうに入られた」
「え、いつ?どこから?」
「ゆうべじゃ、便所のところからじゃ」

母屋のはじっこにある便所まで行ってみた。
すると、男用の便器がふたつ並んでいるところの壁が破れていた。
壁といっても薄っぺらい板一枚で、その向こうはミカン水屋側の路地だ。

泥棒は路地から便所の板壁をこわして入ってきたのだ。
便器のすぐ脇が大きく開いているから、これではおしっこがしづらい。
探偵のような気分になって、ぼくは目がしゃきんと覚めてきた。

店の方に行ってみると、レジの周りに人が集まっていた。
おまわりさんとお父ちゃんが話をしていた。

「たぶん、バールでこじ開けたようだな」
「そんなもんないけどなあ」
「自分で用意してきてそのまま持ってったんだろう。他に被害は?」
「いや、レジの金だけみたいや」

バールというものは何だかわからないけど、レジの引き出しが、
いびつになって飛び出していることからすると、とっても固い道具なのだろう。
便所の壁もそれで引っぺがしたんだなと俄か探偵は判定した。

「それにしても誰にも気付かれずにこんなに荒っぽくできるもんなんだ」
と半ば感心しているのを見抜かれたわけじゃないと思うけど、じいちゃんが
「こりゃあ、プロの仕業かもしれんな」
とつぶやいた。
ぼくは「泥棒にもプロがいるんだ」と更に呑気に犯人の姿を想像していた。

でも間もなく「早くごはん食べて学校に行きなさい」という、ばあちゃんの一言で
ぼくの探偵ごっこは終わった。
ランドセルをしょって家を出るときにはもうおまわりさんの姿も見えなかった。

小学校からの帰り道、ドブを越えようとジャンプした拍子にぐらぐらしていた前歯が抜けた。
びっくりして飲み込みそうだったけど、運良く舌の上にとどまっていたので、
それを片手に握り締め、風通しのよくなった口をわざと半開きにして早足に帰った。
飛び込んでくる冷たい空気のつぶは、味はないけどおいしかった。

上の歯は縁の下のネズミにかじってもらい、下の歯は天井のネズミにかじってもらうと、
次に出てくる歯が丈夫になるんだとちょっと前にじいちゃんに教わった。
上の歯だったのでぼくは縁の下に投げ込んだ。

下の歯が抜けたときは天井裏ではなくて屋根の上に放り投げた。
瓦にぶつかってカチカチと小さな音がすることもあり、なぜかまったく音がしないこともあった。
屋根の上にネズミはいないだろうから、スズメが食べちゃうのかなと思った。

ところで店はいつものようにやっていた。
みんな何もなかったみたいに忙しく働いていた。
勘定場の壊されたレジは影も形もなく、代わりに菓子箱と小銭用に枡がいくつか並んでいた。

ぼくの前歯みたいにスースーしていた便所の壁は、
外からベニヤ板か何かを打ち付けて急場しのぎとしていた。
その修理されたところは、修理されたがゆえに異様な感じがあふれていて、
あらためてどろぼうの怖さがじわりとしみてきた。

そして次の日、店には新しいレジと、仏壇より大きな金庫が運ばれてきた。
nice!(0)  コメント(1)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 1

くっきもんちゃん

私の実家にもドロボウが入ったことがあります。
寝ている所まで入って来て(テレビを観てたそうです)、
びっくりして追いかけたけど、逃げられたそうです。
追いかけた親も怖いけど(笑)そんな所まで侵入してくるドロボウも
怖いです。

歯を処分(?)するやり方は同じですね。全国的なものなのかしら?
by くっきもんちゃん (2009-12-21 22:40) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。

×

この広告は1年以上新しい記事の更新がないブログに表示されております。