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宝永町248番地 第67話 [Wessay]

研ぎ屋

同じクラスにノリミチ君という子がいた。
まわりに太っている子はいないけど、その子は特に色が白くて痩せていた。
しかもおとなしくて動作も速くない。いや、とっても遅い。
みんなは「ノンちゃん」と呼んでいた。

ノンちゃんはどこか危なっかしくて、皆が気にかけてあげなくてはいけないような、
同級生なのに弟のような存在だった。
そんなノンちゃんとぼくはある日、突然接近することになった。

帰りの挨拶がおわって教室の出口に向かうぼくの視界に、ランドセルを背負おうとしている
ノンちゃんのゆっくりした動きが入ってきた。
一方の肩ベルトを腕に通して、もう一方に腕を通そうとして体をよじった瞬間、
ランドセルが傾いて、べろっと開いたフタの中から何かがボタッと床に落ちた。

学校には持ってきてはいけないオモチャ。塩ビというやわらかいプラスチックの人形。
それは仮面ライダーだった。

「あっ、これどうしたの?」
「家から持ってきた」
「持ってきたらだめだよ」
「でも持ってきた、持ってきただけ」
「早く隠しな」
「うん」

「ねぇ、他にも持ってるの?」
「うん、家にある」
「ねぇ、一緒に遊ぶ?」
「うん」

ぼくたちは連れ立って下校した。
家の方向が同じことがわかった。しかもノンちゃん家はぼくの通学路の途中にあった。
とぎ屋さんがある角から三軒目だった。

さっそく家にあがらせてもらって、ぼくは仮面ライダーの人形を見せてもらった。
怪人の人形も何体かあった。クモ男にカマキリ男。
無口なはずのノンちゃんは怪人のことをたくさん話してくれた。
同じテレビを見ているはずなのに何故かとっても詳しかった。

しばらくふたりで仮面ライダーの世界に夢中になっていたが、少し飽きたぼくは提案した。

「ねぇ、ぼくん家にくる?」
「他の怪人持ってるの?」
「うん、あるよ」
「じゃ、行く」

家を出て角まで出ると、研ぎ屋のおじさんが店先で刃物を研いでいた。
店といっても看板がなければ、入り口がどこかもわからないような小さな掘っ立て小屋だった。

「シャッシャッ、シュー」

切り株のような台の上に載せた、灰色がかった緑色の四角い石にはホースから水がかかっていた。
おじさんが両手を使って砥石に擦り付けているのは鎌だった。
ノンちゃんの手にもカマキリ男が握られていた。

「シャー、シャー、シュッ」

やっぱりぼくはこの音が嫌いだ。
散髪屋さんの仕上げを思い出して、ざわわと鳥肌が立つ。

「はやく行こう、こっちだよ」

途中で偶然、ナオシに出くわしたので、ナオシも誘ってぼくたちは一緒に遊ぶことにした。
ピッツンはいなかった。

家に着くなり、ぼくは自分の人形をおもちゃ箱から出してふたりの前に披露した。
中でも今おもちゃ屋さんでは売り切れになっているコブラ男がぼくの自慢だった。
何といっても、コブラ男は普通のコブラの五万倍の毒を持っているのだ。

かわりばんこに仮面ライダー役になって、怪人を倒す遊びをした。
最後は必ずライダーキックで止めを刺す。
ナオシはとうとう自分自身が死神博士になって襲ってきたが、それならとこっちも自分の足で
ライダーキックを繰り出した。

新しいお友だちを連れてきたせいか、ばあちゃんがおやつを用意してくれたので、
ぼくは階下にそれを取りに行った。
器に山盛りの、切った柿と、ビスコがひとり二枚ずつ。
それを載せたお盆を持ってぼくは二階に引き返した。

もう散々遊んだので、ぼくたちはおやつに集中したけど、食べ終わるやいなやノンちゃんが帰ると言う。

「もう帰るの?」
「うん、また来るから」

家を出たところでバイバイと言おうとしたけど、ナオシもまだまだ物足りない様子だったので
ぼくは言った。

「もういっかいノンちゃんちで遊ばない?」
「え?」
「それがいい、それがいい、そうしよ」

ナオシはもう今にも死神博士に変身しそうだった。

なかば強引にぼくたちはノンちゃん家に押しかけたのだけど、何故かノンちゃんは元気がなさそうだった。
でも、いつもの様子といえばいつもの様子だ。
ところが、うしろについて階段を登っているとき、ノンちゃんの背中のシャツから何かがすべり出て、
階段の板の上にコトッと転がった。

コブラ男だった。

「ノンちゃん、落ちたよ」
「・・・・」

ぼくは右手で人形を拾って差し出したけど、何をどうしていいものか分からなかった。
ノンちゃんはうつむいて黙ったままで受け取らなかった。

こういう時は怒るのかなぁと思ったけど、腹は立っていないので怒ることはできなかった。
だけどぼくたちはお互いにバツが悪くなった。
だから、それこそ何が起きたのか分からないでいるナオシをうながして、ぼくは家を出た。

「どうしたの?」
「ううん、なんでもない」
「もう遊ばないの?」
「また明日ね」

研ぎ屋のおじさんはもういなかったけど、ホースの水は出しっぱなしだった。
砥石の上を滑らかにくにゃくにゃと流れる水の揺らぎがきれいだ。

そしてぼくはコブラ男をナオシに手渡しながらもう一度言った。

「また明日ね!」


Togiya.JPG
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コメント 2

くっきもんちゃん

ノンちゃん、どうしても欲しかったんですね。
その後も友達として、仲良くやれたのでしょうか?
ちょっと気になります。
by くっきもんちゃん (2009-11-09 00:31) 

Nyandam

腹が立たなかった、というのは人を疑わない純粋な子だったというか、器の大きさなのでしょうねぇ。
ライダーごっこ流行りましたね。サイクロン号のつもりで自転車で水たまりを飛び越えたりしてました。
by Nyandam (2009-11-09 12:56) 

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