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宝永町248番地 第66話 [Wessay]

白粉花

ぼくの家には犬と猫がいる。
大きな日本犬のレイと小柄な黒猫のタマだ。
タマの主人はぼくのつもりなんだけど、向こうはそう思っていないらしい。

せっかくエサをあげても、食べ終わるとすぐ立ち去って、
ちょっと離れたところで、何もなかったような態度で毛繕いをはじめる。
その仕草を観察するのは嫌いじゃなかったけど、
名前を呼んだら返事くらいしてもいいだろうとも思っていた。

そんなタマの姿がある日見えなくなった。
名前を呼んでもムダなのは知ってるけど、朝ごはんを作っておいても現れない。
ずっと待ってるわけにはいかないので、ぼくは学校に行った。

学校から帰ってきても、ごはんは中庭のいつもの場所にそのまま残っていた。
ちょっと心配だったけど、遊びの誘惑に負けて家を出て友だちを誘いに行った。
今日は何をしようかな?

夕方になってぼくたちの影が大人のように長くなると、おしろい花が咲き始める。
スズメ蛾がさっそく蜜を吸いに飛んでくる。
こいつを見かけるようになると夜が早くくる。
遊ぶ時間が短くなってくる。

ごはんができたよという、ばあちゃんの声を合図にぼくたちは家に帰った。
食卓につくなり、お父ちゃんにたずねた。

「ねぇ、タマがいないよ」
「そうか、そろそろかな」
「そろそろって何?」
「タマはもうだいぶ年寄りだからな」
「家に戻れなくなったの?」
「いや帰ってこれないんじゃない」
「じゃあどうして?」
「ネコはお別れするとき、自分から姿を消すんだよ、誰にも見つからないように」
「ええっ」
「きっともう帰ってこないな」

ぼくは「イヤだ」という言葉を飲み込んだけど、他の言葉も出てこなかった。

次の日の朝もタマは現れなかった。
下校するときに、ぼくは校庭にぽつんと立つイチョウの木に黄色い葉っぱを見つけた。
町もそろそろ秋という季節にすっぽりと包まれようとしている。


今日もふみちゃんたちと一緒に裏庭で遊んだ。
遊んでいる間はタマのことは忘れていた。
でも、おしろい花が咲いたのを見つけた瞬間、タマの声が聞こえたような気がした。

さよならって言えなかったけど、さよなら、タマ。
またいつか違うネコになって帰ってきてね。
色は黒じゃなくてもいいよ。タマの好きな色にして。

ぼくは猫の鼻先のような々の実を一粒とって、両手の指で半分に割った。
黒い種の中から出てきた真っ白なかたまりをさらに指先で潰した。

そして指についた白粉を、ふみちゃんの鼻の頭に、ちょこんと擦りつけてみた。


Oshiroi.JPG

- この原稿を書いた翌日 2009.10.19 愛猫アス、永眠。 God bless him.
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コメント 2

くっきもんちゃん

タマのこと、まだ忘れないであげてるんですね。
きっとかっかさんのこと、見守ってくれてますよ。
それとも、もう転生してるかしら?
そうだと良いですね。
by くっきもんちゃん (2009-10-24 13:29) 

Nyandam

私の実家の猫も、昔はみなそうでした。
そんな猫らしい最期が迎えられる猫は少なくなりましたね。
アスちゃんご冥福をお祈りします。
by Nyandam (2009-10-30 00:30) 

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